issue-002 RE-THINK IN THE DARKNESS

5月14日 六本木ヒルズ40F アカデミーヒルズに向かった。
ダイアローグインザダーク(以降DID)の体験は今回が4回目。脳科学と創造性をテーマに活動するNPO法人の企画サイドとしての体験が3回、いずれも通常のDIDプログラムによるものだった。通常のDIDは、完全な暗闇の中で視覚を遮断することで、視覚以外の聴覚、味覚、嗅覚、触覚が鋭敏視覚をフォローアップし、明るい空間では体験できないセンシティブな五感で感じる空間と時間が提供される。その暗闇内をナビゲートするのは視覚障害者のアテンド達。暗闇では通常とは立場が逆転する。例えば、暗い山の中や部屋では、時間の経過とともにそこにある微細な光を視覚が発見し次第に目が慣れる。
ここの暗闇は厳格だ。何分経っても全く黒(ヤミ色)以外の色を認識できない。そんな少しの光も許可されていない空間では、手に持った白杖とアテンドの元気なナビゲーション、そして、一緒に体験する参加者同士のコミュニケーションがなければ一歩も前に進む事ができない。いや進むどころか戻っている可能性もある。自ずから、参加者は、他人の状態を手探りで確認しながら自分の状況を他人に伝えるという情報交換をしないとやってはいけない。政治家や会社の上司が決めたルールではなく暗闇自体がルールを決める。
動揺を納め少し余裕が出てくると、その暗闇空間に何があるのかが分かり始める。勿論、視覚ではなく、鼻、耳、等の感覚器官を通常の10倍ぐらい大きく広げてして勝手にからだが確かめ始めるのだ。踏みしめる木の葉の擦れる音と季節感漂う匂い。心地よいせせらぎの音、鳥のさえずり。白杖が発見する丸太の橋….。そこにあるのは、どこにでもある風景が広がっているはずなのだが、風景を作り出すのは、いつもより鋭敏になった五感でありそれぞれの記憶・経験の蓄積でもある…


今回の特別プログラムがスタートし闇のゲート?をくぐった。通常版とは明らかに質が異なっていた。具体的なプログラム内容については、これから体験する人のために説明をさけるが、簡単にいくつか与えられたミッションをグループ単位でクリアしないと前に進めない=暗闇から抜け出られないというシミュレイティブな内容であった。いえるのは、通常版が視覚以外の五感を開いて暗闇でのさまざまな日常を感じてみる「右脳的」試みであるのに対して、このプログラムの場合は、暗闇という非日常にさらに「非常、緊急」という非日常が起こって事態が複雑化するため、この「日常」を取り戻すために「ビジョン」「基準」「判断」「行動」「コミュニケーション」などあらゆる能力を駆使しグループ協同作業を行わないと乗り越えられない「右脳」「左脳」そして「それを統合・コントロールする脳」が必要になってくる。


くらやみは、人間の本質や個性、役割を明らかにするユニークな空間である。明るい日常であれば、ものの数分で解決することも見えないというだけで想像以上の時間や能力を必要とすること。我々が忘れがちな本来的なコミュニケーションー相手の状況・状態を想像し、その時最善の思いやりをもって伝えることの大切さを自覚させられる場所。


くらやみでは、肩書きや年齢などの関係性が並列で平等になる。特に今回は緊急時のいくつかのミッションを達成する必要があったので、各自のレッテルは全く必要でなかったし、むしろ、それぞれがどういう性格と性質であって何が得意なのかを知るほうが先に進まねばならないグループワークでは重要だった。
このくらやみで総動員した感覚と心のテンションのまま明るい世界に引き継げば、もしかしたらもっとみんなハッピーに暮らせるかもしれない。


ところで、視覚障害者の方々は、これを毎日続けている。
さて、どちらが障害者なのだろうか?いや、そのどちらでもない。
人は少なからず、皆、障害をもっているから相手の状況を感じとり助け合える。
視覚障害者の方の、日常を生きるノウハウは、これからの閉塞的状況である日本に生きる我々が学び取り入れるべき術である。


現在、日本は、いつ何が起こっても不思議ではないという深層での共通認識のもと、先行き不透明な”暗闇空間”を生きている。そういう意味で、今回の暗闇プログラムは日常生活でも仕事にも活かせるような貴重なプログラムであった。